『パノラマビールの夜』『Port』2つの作品の見どころ
『パノラマビールの夜』
場所:山の上の展望台(ビヤガーデン)
登場人物 旅人:七井悠 展望台の女・人形:大西智子 天文学研究会の皆さん(会長Q:チェサン P:中村彩乃 L:練間沙 R:藤谷以優)
舞台は山頂の展望台にある寂れたビヤガーデン。 その日の真夜中過ぎに、ある星が壊れてなくなってしまうのだという。
それを見に集まってきた天文学研究会のメンバーとたまたま通りかかった旅人、ビヤガーデンの女店主が寒空 にビールを飲みながら語り合う。
各々の記憶の中にある各々の「壊れた町」が交差する。
それは混じり合うことなくそのまま各々の方向へ消えていく。
「何ひとつ共有できないもの同士も、一瞬だけ、一点で交差することはできるのではないか。」
そんなことを思うかもしれない冬の一夜の物語。
***********************************************************************************
「遠く離れた二つの町がありました。
互いの町を行き来する手段は何もありませんでした。
いつの頃からだったでしょうか。
互いの町がちゃんと遠くにあることを忘れないでいるために、
二つの町は夜になると小さく灯かりを点すようになりました。
夜になるとどちらの町も新しい灯かりを点し、遠くの灯かりを眺めるのでした。
ふたつの町はとても大きく、明るくなりました。
町には闇がなくなりました。
いつしか二つの町は遠くの町のことを思い出さなくなりました。
自分の町を十分に自分の灯かりで照らせるようになったのです。
あるとき…… 困ったことが、起きました。
一つの町が壊れてしまったのです。
町は闇の中に沈み込んでしまいました。
壊れた町は狼狽えました。
誰かが、ふと遠くを見ました。遠くに灯かりが見えました。
いったい何の灯かりなのか。誰も、覚えていませんでした。
分からなくても灯かりが見えました。覚えていなくても灯かりが見えました。
それはとても懐かしくて、親しい灯かりのような気がしました。
遠くの町は遠くにあるものですから、何も知りませんでした。
壊れていない町はいつものように暮らしていました。
毎日夜になると新しい灯かりを点して自分の町を包んでいました。
もう、寂しいとは思いませんでした。
どちらの町も、もう、寂しいとは思いませんでした。
イストワール第8話『Port- 見えない町の話をしよう -』
1話:20年くらい前の話 場所:海に面した公園
登場人物 天文学研究会の皆さん( O:大西智子 N:七井悠 P:中村彩乃 M:プリン松 W:渡辺裕子)
2話:30年くらい前の話 場所:海の近くの喫茶店
登場人物 喫茶店の店主:大西智子 アルバイト:三田村啓示 若い客:中村彩乃
3話:150年くらい前の話 場所:海の近く
登場人物絵を描く男:七井悠 去る女:プリン松
4話:1万年〜100万年前の話 場所:海の近く
登場人物最初に本を読む男:三田村啓示 次に本を読む女:渡辺裕子 その次に本を読む女:大西智子
道はここで終わっていて、ここは行き止まりだった。
ある時、誰かがその先に海を見た。
海の向こうにあるかもしれない町を見た。 そしてそれを誰かに話した。
そんな町は見えなかった。
だけど、聞いた人は別の誰かに話し、その誰かもまた別の誰かに話した。
その町へ行ってみたいと誰かが思った。そしてそれを誰かに話した。
ない町へなど行けるはずがなかった。
だけど、聞いた人は別の誰かに話し、その誰かもまた別の誰かに話した。
海を超える方法を誰かが思いついた。 そしてそれを誰かに話した。
とても現実の話とは思えなかった。
だけど聞いた人は別の誰かに話し、その誰かもまた別の誰かに話し…
やがて長い時間が過ぎ…
ここを行き止まりだと思う人はもういなかった。
ここは、実は海の向こうの見えない町への門戸なのかもしれないと、誰もがひそかに思っていた。
そして、船が来た。ここは港になった。